特集シリーズ「今日も元気で」 2024年3月1日 vol.11

ごはんがつなぐ優しい時間
〜みんなの居場所「たまご食堂」〜

毎月第二・第四日曜日の昼、たまご(多孫・他孫)が開かれる中地域防災センターは多くの子どもや親子で賑わいます。ここは、工作や昔遊びを楽しんだり、別室でゆっくり食事をしたり、思い思いの時間を過ごしてほっと一息つける場所。そんなたまご食堂が生まれたきっかけや想いを、代表の木島 香織さんにお聞きしました。

【冒頭写真】左から、副代表の内田さんと楓ちゃん、代表の木島 香織さん、副代表の笹田さん、ボランティアの遠藤さん

自分たちが暮らしやすい地域のために

2歳くらいのエプロンをした子が、かがんだ姿勢のおばちゃんの両手に乗せられた小さな紙を持ち上げ、見ている。

いつも笑顔の木島さん。普段はフラワーデザインのお仕事をしている

国立市の中地域で生まれ育った木島さん。地域活動に関わるきっかけは、15年ほど前に公民館でチラシを見て駅前整備に関するまちづくりの会議に参加したことだったそう。

「国立が大好きなので、先人が築いた国立の大切な部分を未来につないで欲しいという気持ちで参加しました。学んだこともたくさんありましたが、ちょっと違和感もあって。意見をぶつけ合うだけではなくて、暮らしに関わるテーマをもっと気軽に話題にしながら活動できないかなと思ったんです」

そんなとき、会議で知り合った友人が地域でゴミ拾いをはじめたので参加するように。その後、社協から誘われて中地域の交流会「中のまち博覧会」に参加。2016年10月、地域や公民館で活動している団体や自治会、民生児童委員など約30団体が一橋大学の国際交流会館で自己紹介POPを貼り出して交流した。ここから中地域の「小地域福祉活動」がはじまることになる。

「自分たちが暮らしやすい地域にするために何かしたいという思いが共通していたんです」

たまご食堂が開催されている防災センターの前庭に人がぱらぱらと集っている。子乗せのついた自転車が複数とめてある。

たまご食堂が開催される中地域防災センター

まずはできることをしよう

月に一度、50〜80代の有志が集まって、地域の課題ややりたいことを話しはじめた。活動の名前は「なかなかいい会」に決定。約1年かけてコンセプトを「楽しい・嬉しい・安心のまちづくり」とし、「子どもたちのために何かしよう」と決めた。既に数名が行っていた通学路の見守り活動からはじめ、中地域の3つの小学校の地図入りの自己紹介カードも作った。分担して毎日のように通学路に立つと、次第に子どもたちも挨拶をしてくれるようになった。

見守り活動を続けていると子どもたちの状況が段々とわかってきたという。「中地域にも子どもの孤食や栄養の問題がある」と知ったメンバーから、「次の活動として子ども食堂をやってみようか?」というアイディアが出てきた。しかし「はたして飲食店でもない私たちに出来るのか?」「続けられるのか?」と、すぐには動き出せずにいた。

変化のきっかけは、市が開催した映画「みんなの学校」(インクルーシブ教育のドキュメンタリー)の上映会にメンバーが参加したことだった。直後の2019年はじめの定例会で「もっと地域が学校に関わってもいいんだ」という気づきを共有。続けて、それぞれが障がい者やマイノリティの方たちと交流した経験を話しはじめた。お互いの知らなかった一面や想いに触れたからだろうか。

「空気が変わり、お互いにリスペクトが生まれた気がした。『まずはできることをしよう』と、子ども食堂のアイディアを形にするために一気に動きはじめました」

エプロンをした女性が防災センターの扉を内側から開いている。

「多孫」「他孫」のたまご食堂

それから2ヶ月後、当時のメンバーの一人が運営していたコミュニティスペース「かふぇ カサムシカ」で子ども食堂のお試し会を実施することに。

「外国にルーツを持つ人たちや障がいを持つ人たち、近所の親子連れなど15名ほどが参加してくれた。大人同士も交流できたし、初対面の子どもたちも仲良く走り回っていて、とてもいい空間。印象深い1日でした」

盛況に終わったお試し会の経験から、なかなかいい会の方針が固まった。次の定例会で教育学者が提唱していた「多孫」「他孫」(地域の大人が子どもと交流して孫のようにかわいがると、やがて地域の多くの子どもが孫のような存在になる)という言葉が共有され、それを取り入れた「たまご(多孫・他孫)食堂」という名前も全員一致で決まった。

「食堂を通じて、誰もが暮らしやすい地域をつくろう。地域の大人たちが子どもたちを自然と見守れるような場所。困ったときは、お金も障がいも年齢も関係なく声がかけられるような居心地のよい場所。そのために食事だけでなくプラスアルファを提供しようと話していました」

2歳くらいの子に女性が絵本を手に持って読み聞かせをしている。
センターの入り口あたりに出された長机にたまご食堂とかかれた紙が下げられていて、2人の男性がそこで来訪者の受付をしている。

突然のコロナ禍、地域の心の支えとして

2019年6月には第1回たまご食堂を開催、子どもには無料で手作りカレーを提供した。また「ご飯と一緒に地域の温かさを感じられる場所にしたい」という思いで地域のプロの方々をお呼びして「drawing(お絵描きワークショップ)」や「お話(素語りやストーリーテリング)の時間」も設けた。保護者からは「しばらく会っていなかった保育園のママたちと会うことができた。かけがいのない場所。続けてくださいね」と励まされることもあったそうだ。

回を重ねるにつれて、なかなかいい会のメンバーだけでなく、若いボランティアも増えていき、ゆるやかなつながりの輪が広がっていった。

「利用者の小学6年生が今度はボランティアとして参加してくれるようになったり、それを見ていた4年生が『わたしもやる!』と手伝ってくれたりするんですよ」

たまご食堂とかかれた黄色いのぼりを中心に30人ほどの人が思い思いにポーズをとって集合写真に写っている。
沢山の缶バッジ。一人一人の名前がかかれていて、すべてひらがなで書かれている。名字が多いが名前も。
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これまでに関わったメンバーは100名以上で、世代も幼児〜90歳と幅広い

LINEの案内メッセージの画像。日本語と英語でたまご食堂の開催概要とメッセージが送られている。チラシの画像も。

大学生ボランティアの提案でスタート時からLINE公式アカウントを導入。開催通知は日本語と英語で同時配信、食事の予約はLINEからできる

美味しそうなキーマカレーが少し底のふかい丸皿にもりつけられている所がアップで写っている。
屋内で、エプロンと三角巾をしたみなさんが配膳の準備をしている。
防災センターの入り口玄関で、来訪者とエプロンをした2人が談笑している。来訪者の方が白いビニール袋を持ち上げて持っているのでテイクアウトするのか差し入れかもしれない。
たまご食堂、一言ノートと書かれたノートが写っている。こどもの感想メッセージが書かれた画用紙と一緒に置かれている。
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大人気の手作りキーマカレー。一言ノートには「甘くておいしかった!」と子どもたちのコメント

しかし、2020年2月からコロナ禍で状況は一変。公共施設が閉鎖して活動が中断する中、メンバーで「非常時の今、できることは何か」を考えた。その1つが「なかなか通信」だ。

「学校もお休みになったし、これまで会えていた人たちに急に会えなくなって。みんなお家でどうしているのか…。『みなさん元気ですか。会えなくても、みなさんのことを想っています』と伝えたくてはじめました」

なかなか通信1号の画像、心のストレッチも忘れずにという見出しが見える。さまざまなポイントが実例をあげて書かれている。
なかなか通信2号の画像、コロナ中のアドバイスや卵食堂のお知らせが書かれている。
なかなか通信5号の画像、英語バージョンと中国語バージョンのものがある。
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コロナ禍ではじめた「なかなか通信」。英語・中国語でも配信している

幸い、LINEでつながっていたため多くの人に通信を届けることができた。そして、2020年7月には国立市の「子どもの“食”支援事業」でお弁当を用意して配布する形での再開をはたす。温かい味噌汁やスープも一緒に提供し、とても喜ばれたという。「あの時、家で子どもとしか話せず辛かった。たまご食堂で久しぶりに大人と話しができて、なんとか気持ちを保てました」といった声が後にLINEで寄せられたという。

協力してくれる方も増え、近隣のアパートの大家さんが1室をたまご食堂の「お食事の部屋」として提供してくれた。また、市の助成金やさまざまな寄付のおかげで、毎月2回のお弁当の調達費用をなんとか賄えているそうだ。

そして「縁日」「おさがりバザール」「クリスマスコンサート」といった企画をコロナ禍にも関わらず次々と開催していった。おさがりバザールの実行委員会には利用者も加わり、子ども用の衣類の仕分けや当日の受付を手伝ってくれたという。

4人の高校生ボランティアがエプロンをして写っている。

「縁日」を企画してくれた高校生・大学生ボランティア。コロナ禍でも毎回来て、屋外の工作コーナーで子どもたちをやさしく迎えてくれた

「近隣の方々や他の中地域防災センター利用者も好意的で、コロナ禍でも見守ってくれていた。音楽会やクリスマスコンサートを楽しみにしてくださったり、ハロウィーンイベントに地域を挙げて協力してくださったり。こんな地域の協力もとてもありがたいです」

ハローウィンで、こどもたちと高齢者が魔女や角をはやす仮装をして交流している。

ハロウィンでは近隣の高齢者施設の入居者が変装してお菓子を配ってくれる

おさがりバザールカンパと書かれた紙がさげられたテント。子供服とカンパ箱が下げられている。いろんなお下がりの服が並べられている。
水風船のヨーヨー釣りに2組の親子が挑んでいる。小さな女の子と見守るおかあさん。もう一組は小さな男の子とおかあさんで、一緒にそーっと釣りあげている様子。
青いボーリングのピンのようなものを3つ使って、お兄さんがジャグリングをしている。それをみている親子とこどもが写っている。
大きな開放型のテントの中でバイオリンを演奏する女性とキーボードを演奏する女性。まわりにはこどもや大人が集まっている。
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おさがりバザール、縁日、ジャグリング、クリスマスコンサート、どれも大盛況

2022年3月には約2年ぶりに調理ができるようになり、月1回手作りキーマカレーを提供できるようになった。この間、関わるメンバーも利用者も増え、現在ではLINE公式アカウントの登録は270世帯以上、毎回100食以上の予約があるという。

自然と役割が生まれる、みんなの大切な場所

小学生ぐらいの女の子と向き合うポールさん。手には手紙のようなものを持っている。

工作コーナーを担当するアーティストのポールさん。毎回工夫を凝らした題材を用意してくれて子どもたちに大人気

講師のポールさんと小学生ぐらいの女の子が作品を持って一緒に笑顔で写っている。

お母さんと弟がご飯を食べている間も工作に熱中。できあがった素敵な作品にポールさんも大感激

たまご食堂ではこの場に集う人それぞれに自然と役割が生まれる。大学生や高校生もイベントを企画できるし、小中学生もボランティア参加できる。料理が好きな人たちは調理班にまわり、他にも工作コーナーで教える係や配膳係もいる。そして、利用者はちょっと皿洗いをしたりもする。何もしなくとも、じっと子どもたちを見守ってくれている人もいる。

「私は何もしていなくて、来る方ができることをしてくださっている。自然といろんな方がお手伝いしてくださって、車椅子やストレッチャーを利用している方も来てくれる、まさにインクルーシブな素敵な場所。意図せずにみんなで作ったこの場所を、利用者やお手伝いのメンバー、運営スタッフのほか、関わるみなさんが大切にしてくださっていることが何より嬉しいです」

エプロンをした男性が小さい子をだきあげ、たかいたかいをしている。

副代表の内田さん。大学生のときに初めてボランティア参加し、いまはお子さんと一緒に通う

エプロンをして黒縁の眼鏡をかけた若い男性が写っている。

副代表の笹田さん。「おさがりバザール」などを企画。「みんながアイディアを応援して手伝ってくれる雰囲気がいいですね」

たまご食堂、なかなかいい会と書かれたのぼりの脇に低いベンチが並んでいる。こしかけて微笑んでいる運営スタッフのお兄さんとおばちゃん。お兄さんに抱きかかえられた小さな子は不思議そうな顔をしている。
おぼんにのせられたキーマカレーとサラダ、お茶。

たまご(多孫・他孫)食堂

中地域防災センター/コーポ多摩101
毎月第二日曜・第四日曜11:30-13:30
Facebookで普段の様子や開催情報を更新中。LINE公式アカウントでは食事の予約ができる。食事は18歳以下無料(大人カンパ500円〜)
facebookのアイコン画像たまご食堂のFacebookページ
※LINE公式アカウントの登録はFacebook内のチラシからできます

ボランティアってなんだろう?

取材陣にふと浮かんだ疑問、「そもそもボランティアってなんだろう?」。その形を探るべく、取材した方々に「あなたにとってボランティアとはなんですか?」と質問させていただいた。もちろん答えは、百人百様。

Q.あなたにとってボランティアとは?

手ぶりをまじえて話している女性。木島 香織さん
「ボランティアとは思っていなくて、楽しいことの1つですね。これからも無理せず楽しく続けていきたいです」

ボランティアに関心のあるかたはこちら

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国立市ボランティアセンター
電話:042-575-3223
メール:kvc@@kunitachi-csw.tokyo

・国立市ボランティアセンターFacebookページ
・国立市ボランティアセンターX(旧Twitter)



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