9月の日曜日、昼前から、国立市富士見台のダイヤ街の一角に、親子や子どもたちが続々とやってくる。店の前の黒板には「ぐるぐる食堂 どなたでもどうぞ」の文字。
ここは誰でも、子ども一人でも食べに来ていいところ。通りがかりにふらっと入れて、予約不要。月2回、第1・第3日曜日だけオープンしている食堂だ。
[冒頭写真]右からボランティアの魚住美千代さん、西加幸生さん、伊藤真理子(国立市ボランティアセンター職員)
誰が来てもいい「ぐるぐる食堂」
主催者は、この建物・シェアハウス「コトナハウス」2階に住んでいる西加幸生(にしかゆきお)さん。
多摩市で保育士として働きながら、地域でも子どもたちと触れ合える場所をつくりたいと、2020年9月に「ぐるぐる食堂」を始めた。
コロナ禍で、学校が休校になり、子どもにとっての居場所がなくなった夏。何かをやりたいという衝動にかられ、思い切って子ども食堂にかじを切る。
「子ども食堂=貧困というイメージではなく、誰でも行きやすくて、行きたくなる場所にしたかった。だってその人が経済的に困っているかどうかなんてわからないし。たとえお金に困ってなくても子育ては大変だと、保育士だから承知している。少なくとも、僕よりは大変(笑)。月に2回の食事の肩代わりくらいはしたいという気持ちでした」
定員15人ほどのスペースは、満員のときは4,5回も入れ替わり。次の回の人は名前を書いてから、近くのきしゃポッポ公園(谷保第一公園)で遊んで待っている。親子、子どもたちだけの組、さらにスポーツ練習の帰りという小中学生グループも。
「お客さんが来てくれると嬉しいです。ただ本当に困っている人に届いているのか、そこは難しい。ワイワイしている雰囲気が苦手な子もいるかも。でも、いろんな子ども食堂があっていいし、僕はこういう形がいいと思う」
そして、何より自分自身が楽しいことがいちばん大事、と西加さんは付け加えた。
この日は立川のNPOから地元産小麦粉を寄付されて手打ちうどんに。付け合わせも、寄付でいただいたシソを入りナスのみそ炒め。
ボランティアが支える「ぐるぐる食堂」
西加さんは保育士11年目。大学の経営学部を卒業し、保育園を経営している企業に就職したが、もともと保育士になりたかったこともあって現場の保育士へ転換。
「子どもが好きなのは、その自由奔放さ、素直さに魅力を感じるから。ありのままに生きている。その反面、社会的な力をもたないから、大人中心の社会では弱い立場になりやすい。だからその代弁者というか、目の前の子どもの声をくみとって少しでも子どもたちの方を向いていたい」
数年前、国立市のコトナハウスが目に留まったのも、そこが地域の子どもたちと関われる場所だったからだ。
「コトナハウス」は、2階が定員5人のシェアハウス。住民のキッチンや居間でもある1階は「チャノマ」と呼ばれるパブリックスペースで、昼間は住民以外の登録会員が趣味の活動の他、子どものための教室や居場所として活用している。
ぐるぐる食堂のメニューは、「かつて学童クラブで50人くらいのおやつやカレーをつくっていた」という西加さんが、自分で考えている。
メインは子どもたちがたべやすいもの。味はできる範囲の薄味で。
「一般の外食って大人の男性の好みの味に作られているものが多いでしょう。ここでは親が安心して食べさせられるようなもの、野菜も多めにしています」
そんな西加さんを支えてくれるのがボランティアだ。最初に見学に行った「たまご食堂」(国立市中で月2回開催される子ども食堂)で出会った方々や、学生たちがキッチンをお手伝い。その日の朝から一緒に料理をつくりはじめて、仕上げはみんなで。準備は十分整えていても、お客さんがたくさん来るときは、お皿によそうだけでも大忙し。
「活動は、僕ひとりではできません。国立市からの助成金も多少もらえるようになったし、食材を寄付してくれる方もいる。ほんとに助かっています」
食材の肉はいつも隣の「鳥たけ」で購入。「今日もたくさん来たね、頑張って」と励まされる。
若者と地域をつなぐ「ぐるぐる食堂」
「最初にここに見学に来たとき、大家の落合加依子さんが商店街から南部の方まで案内してくれたんです。このあたりは昔ながらの老舗もあるし、若者たちがやっている新しい店や大手スーパーも共存している。郊外でも国道沿いにチェーン店ばっかりがあるようなところではなくて、このまちをつくっている人が見える、そこがよかった」
コトナハウスの向かい側には、その落合さんが経営している小さな出版社「小鳥書房」がある。小鳥書房は谷保界隈では唯一の小さな本屋さんでもあるが、今では西加さんにとっての大切な居場所。時折開催される読書会やイベントは、楽しい情報交換にもなり、そこで知り合った人がぐるぐる食堂に食べに来てくれたり、遊びに来たり…。
「若者の多くは、仕事とプライベートな時間の間に子どもと接する機会って、あまりないと思う。ぐるぐるに来ると、子どもがいて元気にしてて一緒に遊ぶ…。それが新鮮だと言われます」
西加さん自身、ぐるぐる食堂を始めたら、子育て世代やちょっと上のボランティア世代、さらに食材を寄付してくれる世代などともつながっていた。
「くにたち社協やボランティアセンターも、それまで存在は知っていたけれど、別に必要としていなかった(笑)。いろんな人が地域にいるって、当たり前だけど、気づいていなかったんです。僕の場合、コトナハウスという環境があって、そこがうまく機能していったけど、若者がもっと地域と出会える環境があったらいいと思う」
ぐるぐる食堂というネーミングの由来は、「思いや(人の)恩がぐるぐるとつながっていく」という、西加さんのコミュニティのイメージだそう。
互いに助け合いながら、世代を超えて交流が生まれる。
コミュニティを担う若者が、住みやすく、暮らしを楽しめるまち…。
そうした環境がこれからも、このまちで育まれていきますように。
【ぐるぐるライブラリー】リビングにある本棚には、近隣の方やNHK学園から寄贈された絵本が並ぶ。絵本にはおすすめのメモがあり、ぐるぐる食堂に来た子どもたちは自由にもらうことができる。
左から小鳥書房店主の落合加依子さん、西加さん、小鳥書房スタッフの佐藤雄一さん
ぐるぐる食堂
国立市富士見台1-8-38
月2回 第1・第3日曜日Open
11時半~14時
子ども無料 大人300円(予約不要)
コトナハウス
[こちらの特集については、地域で活動されているライターさんにご協力をいただき記事を作成していただきました]
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