今回は国立市聴覚障害者協会会長の高橋 今希子さんにインタビュー。(上記写真)手話をめぐる物語をお楽しみください。
表情豊かに表現しよう。手話講習会
【手話講習会】 「自分のペースで手話を楽しく長く、続けてほしいなぁ」
高橋今希子さんは、くにたち福祉会館で行われている手話講習会の講師をつとめて20年になる。取材で初級クラスの教室にお邪魔すると、手話だから静かな教室と思いきや、5分に一回、笑いがおきる楽しい様子にびっくり。
「生徒さんを笑わせているつもりはないのですが(笑)手話には手の動き、表情が必要なので、固まった表情を和らげてほしくて」
単語をただ並べて覚えるのではなく、書かれた文章がどんな手話になるか考えたり想像したり。表現についても学ぶことができる講座だ。
「20年前はドラマとかで興味を持って講習会にくる人が多かったのですが、最近は職場などで聞こえない人がいて、その人とのコミュニケーションのために参加する人も増えている。ぜひ覚えたいと、皆やる気をしっかり持って学びに来てくれてうれしいです」
かつては手話で話すのはみっともないとか、理解されずに白い目で見られて嫌な思いをしたことも。電車のなかで子どもが興味をもってくれても、親が見ないように制止することもあったのだ。
「時代の流れとともに、手話を取り巻く環境は変わってきていますね」
学校では手話が禁止されていた時代も
【小学校出前講座】 市内の小中学校で手話の授業。小さい時から聞こえない人と出会う体験は、大人になったときに臆することなく一歩踏み出せるはず。
手話は聴覚障がいの人にとって大切なコミュニケーションの手段だ。しかし高橋さんが育った時代は、学校教育のなかでは口話教育一辺倒で、手話は禁止されていた。
「私は小さい時から聞こえないので自然に手話を覚えてきた。みなさんが音声言語を身に付けたのと同じです。ところが手話をつかうと怒られるので、友達と隠れて手話で話をしていました。言いたいことがあっても思うように言えなくて、我慢することが多かったのです」
昔は家庭と同様、学校でも自由だった手話が、大正から昭和にかけて口話教育が推奨されると一転、教育現場では否定される。現場からの訴えもあって再び手話が注目されて広がったのは1990年代、そして2009年にはようやく学校指導要領が変更されて、教育現場でも手話を併用することが可能になった。
「学校でも手話が認められたことで、子どもたちの理解力が本当に伸びました。かつて手話と口話教育と両方が必要と訴えた実在の人の映画※もあってそれを観ると、歴史が分かります。私自身はいつも居残りで一生懸命発声の練習をさせられても、口話教育に疑問を持たなかったのですが、のちには聞こえる人に合わせることが必要なのか、そうではなくてお互いが歩み寄るかたちがいいのではと思うようになりました」
※『ヒゲの校長』谷進一監督。手話の父といわれた高橋潔氏を描く。2022年クラウドファンディングをもとに制作された。
・公式サイト(上映予定など)
コミュニケーションをあきらめない
「今はインターフォンが鳴れば光や振動で知る機器があるなど便利になって、日常生活の上で困ることは減ってきています。ただ私たちにとっての障がいは聞こえないから不便というだけではなく、さらに情報入手の障がい、コミュニケーションの障がいがあるのです」
ふだんはテレビに字幕が表示されていても、いざ災害が起きた場合、正確な情報が届かない。東日本大震災では「津波が来るから高いところに避難してください」という放送があってもわからず、家にいてたくさんの方が亡くなっている。
また例えば身体障がいの方の手助けをしたいと思ったときに、コミュニケーションがとれないのでほかの人任せになってしまい、あの人は冷たいと誤解されることもある。
「外から見てもわからないので、聞こえないとわかったとたんにどうしたらいいか、相手が困ってしまうのですね。街の中で道を聞かれたとき、私は耳が聞こえないと答えると、あ、じゃあいいですといわれるとすごくショックを受けるんです。聞こえなくても、例えばメモをもっていれば筆談ができるし、スマホでもいい、いろんな方法であきらめずに聞いてくれるとすごくうれしい」
たとえ手話ができなくてもコミュニケーションをとろうと思うことがその先の理解につながる、と高橋さんは考える。
昔アメリカに旅行したとき、言葉が通じなくても「OK!カモーン!」と身ぶりで気さくに応対される感じがとても印象に残っているという。多民族国家のアメリカでは、多様な人がいるのが当たり前の文化の中で子どもたちは育っている。聞こえる、聞こえないなんて気にしないのだと。そう、聞こえないことは特別じゃない。普通に生活している。
「誰にでも苦手なことがあるように、私は聞くことが苦手なだけ。障害があるからやってあげなきゃと思い込まず、必要な時に力を貸してもらえたらそれだけで充分です」
高橋さんが、国立市ボランティアセンターがコーディネートする小学校等の出前授業にできるかぎり協力しているのも、子どもの時から手話や聞こえない人に触れる機会が大事だと思っているからだ。
「くにたちには『しょうがいしゃがあたりまえに暮らすまち宣言』の条例があります。聞こえないこと・聞こえない人を知り、言語である手話を学ぶ機会が広がることを願って、これからも活動していきたい」
2025年には聴覚障がい者のオリンピック『デフリンピック』が初めて東京中心に行われる。陸上や水泳、テニスなど全21競技。1924年にフランスで開かれてからまさに100年のこの大会は、聞こえない人と触れ合えるよい機会ともなる。ぜひ手話を学んで一緒に応援しませんか。
令和5年度手話講習会受講生募集
【期間】令和5年5月下旬~令和6年3月下旬まで
【受講料】参加費3,000円+教材費実費(3,500円程度)
【受講条件】
・令和5年4月1日現在、国立在住、在勤、在学の15歳以上(中学生を除く)の方。
・令和5年度の社会福祉協議会の会員(個人500円以上)にご加入の方。
※当日、会員加入可。
【締め切り】4月17日(月)17時
【申し込み】以下の申込フォーム、またはQRコードより。
・令和5年度 手話講習会 申込フォーム (google.com)
【問い合わせ】電話042-575-3226(手話講習会担当)
・手話講習会についての詳細はこちら
手話で運営される日本初のスターバックス
【スターバックスコーヒーnonowa国立店サイニングストア】しょうがいしゃがあたり前に暮らすまち宣言」を掲げる国立市が、スターバックス日本初のサイニングストアの場所として選ばれた
JR国立駅の改札を出てすぐの「スターバックス コーヒー nonowa国立店」の看板には、手話の指文字が並ぶ。じつは、同店は世界で5番目、日本初のスターバックスの「サイニングストア」。手話で運営される店として2020年6月にオープンした。明るく開放的なカフェは、学生や子ども連れ、お年寄りなどさまざまな人たちでいつも賑わっている。
ここで働くのは、半数以上が聴覚に障がいのある人たち。すばやく手話を交わしながらにこやかに働く彼らからは、仕事に誇りを持ち、心から楽しんでいることがうかがえる。
お客さんと向き合い、アイコンタクトと笑顔でコミュニケーション
「働いている私たちを見て、いろいろな文化や多様な人たちが混ざり合っていることを感じてほしい。そこからまた新しい文化が生まれていく、そんな場所になればうれしい」(スターバックス広報)
手話で運営されているとはいえ、お客さんは手話ができなくても大丈夫。指差しや筆談などでも注文できるように工夫されている。
「お客様にはパートナー(従業員)とのコミュニケーションを通じて、コミュニケーション方法って、しゃべるだけではなくて、笑顔だったり、表情、身振り、手振り、さまざまな言語もありますし、いろいろな方法で人と繋がれるんだなっていうふうに、気づいていただけたらなと思います」(スターバックス広報)
2021年3月からは、JRからの依頼で国立駅社員などへの手話講座を開催。好評のため定期的に開催することになり、いまでは国立駅の全社員が参加しているという。同店をきっかけにして、聞こえる人と聞こえない人の交流がじわじわと広がっている。
「コーヒーを飲みに来た人も、働いているパートナーも。 みんなが自分らしくいられる場所を作りたい」
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