特集シリーズ「今日も元気で」 2025年1月1日 vol.16

くにっ高生から広がれ! くにたちの自然と元気の輪

「くにっ高生」は国立市在住・在学の高校生が学校の垣根を越えて始めたプロジェクト。矢川緑地の観察や清掃、イベントの企画などを通して「くにたちの自然環境を考えるきっかけにして欲しい」と日々活動しています。

(冒頭写真)矢川とママ下湧水・府中用水が合流する矢川おんだしにて。くにっ高生メンバーとまち歩き企画の参加者、アドバイザーの大谷さん

くにたちで生まれた高校生プロジェクト

少し広めの教室のような場所で、何台かの机に高校生たちがグループに分かれて座っている。みんなの視線の先には、植物でつくられたふくろうのようなものをかかげた男性と女性が立っており、なにかを説明している。高校生たちは思い思いにそれを見ている。

放課後におこなわれる企画会議の様子

「くにたちを元気に!」を合言葉に活動するくにっ高生は、国立市ボランティアセンターが呼びかけ、第五商業高校・国立高校・国立音楽大学附属高校・NHK学園高校の生徒が中心となって、2023年4月に発足した。

活動内容は、毎月の矢川観察や清掃などのフィールドワークを通じて課題を見つけ、会議で話し合う。その内容は、次のフィールドワークやイベントの企画につなげていく。

アドバイザーは「くにたち桜守」の大谷和彦さん。
「小さな生きものや矢川の水が少なくなっていることは、今は自分たちに関係ないと感じるかもしれません。しかし、すべての命はつながっていて、小さな変化がさまざまなことに影響していきます。ネットの情報ではなく、実際に“見て感じて”本当の自然を知ってほしいと思っています」と、熱い想いを胸にくにっ高生を支えている。

現在60名ほどの学生が在籍していて、毎月の会議やフィールドワークには20〜30名が集まる。

会議では意見やアイデアを自由に発言できる、和やかな雰囲気。各学校で生徒会や部活などで声をかけて、毎月のように新しいメンバーが加わる中で、自発的にフォローし合っている姿が印象的だった。

活動の中で作られた「やがわのマップ」は、カラフルなイラストもまじえて、矢川周辺の自然環境や生きものについてわかりやすくまとめられている。

やがわのマップ。やがわの地図と矢川緑地の説明、ビオトープの説明、おんだしの説明が書かれている。となりのページにはキャラクター紹介として生きものをモチーフにしたキャラクターが6体。その下には団体のくにっ高生の紹介が書かれている。
やがわのマップ。表紙と矢川でいま起こっている水位の低下の課題と、自分たちにできることが紹介されている。
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イラストやキャラクターでわかりやすく解説している「やがわのマップ」

地域に想いを届ける

くにたち旧駅舎の建物内で、矢川自然探検隊のいろんな紹介や解説のポスターを持って高校生たちがみんなで写っている。大人もちらほら見える。

国立旧駅舎で開催した「あっぱれ!矢川深掘りプロジェクト」にて

2024年3月には国立旧駅舎にて活動に関する展示と発表をおこない、その中でくにっ高生によるトークショーを開催。地域の人たちに直接想いを届ける機会となった。

こうした成果物をまちの人に見てもらえたことは、大きな自信につながったとメンバーの一人。
「展示やトークショーに足をとめてくれる人は決して多くはなかったけれど、話を聞いてくれた人はとても熱心に耳を傾けてくれました。ぼくたちが活動していることに関心を持ってくれて、くにたちの自然について考えてくれる人が増えたならとてもうれしいです」

イベントの集客や想いを届ける工夫に苦労したというメンバーは、
「地域やたくさんの人に向けた企画に参加できることは、とても貴重な体験だと思います。学校の授業や行事では味わえない、達成感がありました」と、活動に確かな手応えを感じた様子。

くにたちクイズ大会とかかれたポスターのまわりに高校生たちがあつまって集合写真。
男性と高校生たちが展示の打合せをしている様子。机を囲んで紙を広げながら話し合っている。
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2024年8月、矢川プラスで開催した「くにたち自然クイズ大会」では、たくさんの子どもたちがクイズに参加

昨秋には2回目となる矢川のまち歩きイベントを開催。「矢川自然探検隊 vol.2」と称して、矢川周辺を歩き、クイズやオギをつかったミミズク作りをした。

それぞれの得意を生かして企画や準備をすすめ、ポスター制作やクイズ作成、ルートの考案など、当日イベントに参加できないメンバーも率先して準備に協力。

広報としてSNS運用チームも始動した。
「活動を知ってほしいという目的ではじめました。自然環境のことを考えたときに、自分たちが何か変えるということよりも、まずはたくさんの人に知ってもらって、たくさんの人がそれぞれに小さなことから行動できたら、結果的に大きな変化になると考えました」とSNSチームのリーダー。

矢川の魅力再発見

「矢川自然探検隊 vol.2」は矢川プラスからスタート。手作りの旗を掲げるメンバーが先導して、秋の風景を楽しみながら滝乃川学園、矢川おんだし、ママ下湧水を辿っていく。

滝乃川学園の入口で、高校生がおおきくひき伸ばした写真を持って説明とそれに関わるクイズを出題している。
水路の脇で高校生がポイントの説明をしている。参加者は水路にかかった小さな橋に並んで、解説とクイズを聞きながら水路を観察している。
参加者たちが一列になって、ゆっくりと田んぼの向こうから矢川おんだしにつきあたる水路脇を歩いている。
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まち歩きの様子。ポイントごとにクイズを出題

途中、矢川の水温を測ると18度。触れてみると、意外と温かい。矢川は湧水を水源としていて、地下では外気の影響を受けにくいので、年間を通して水温が変わらない。

「自分の肌で感じたことで、自然環境に問題意識を持つようになりました。温暖化や生態系の変化が進み、植物や農作物を育てる上でも毎年新しい対策が必要になってきています。自然環境も同じスピードで変化しているならば、自分にできることは何か真剣に考えるきっかけになりました」そう話すのは、畑を借りて作物を育てているというメンバー。

水路のところで子どもと高校生がしゃがんで、手を小さく開いて何かを観察している。
ママ下湧水の湧き水にそっと片手を差し入れ、水の温度を確かめている男性。水面に湧水の波紋が見える。
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ママ下湧水で水温を体感。「ママ」は古語で傾斜地や崖線のこと

矢川を辿っていると、さまざまな野鳥に出会える。ゆらゆらと気持ちよさそうに泳ぐカモや存在感のあるアオサギ、じっと魚に狙いを定めるシラサギ、姿は見せずに高い声で鳴くあの鳥は何だろう…?

まちの中心地からほんの少し歩くだけで、豊かな緑と水源があり、東京では珍しい田んぼが残り、タイムスリップしたような景色が広がっている。

2匹のかるがもが寄り添って水路を歩いて行く。
水路の中をシラサギが差し足で、首をS字に曲げながら歩いている。白い羽毛に覆われた身体と鮮やかなオレンジのくちばしが見える。水面に半身が反射している。
収穫の終わった田んぼの風景で、複数の稲わらを根元でしばり、逆さに置いた三角錐の形のものが点々と並んでいる。向こうには雑木林と大型のビニールハウスが見える。
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くにっ高生に参加するまでは、国立市の自然について知らなかったというメンバーも、
「国立市はとてもいいまちだと思う。自分が暮らすまちの自然のことも、もっと知りたくなりました」と、自然への関心が広がった様子。

まち歩きの終盤は、国立第六小学校のビオトープと矢川いこいの広場へ。ビオトープとは「生きものの暮らす場所」という意味で、大小に関わらず生物が住みやすい自然環境のこと。

国立第六小学校は敷地内に矢川が流れていて、小さな生きものの生態系を感じられる場所。学校の敷地に川が流れているのは、東京都では2校しかない、貴重な環境なのだ。

学校沿いに流れる小幅な矢川をはさんで、参加者たちが説明を聞いている。川をとんで渡れるよう3つの四角い石が水路内に設置されている。
学校沿いのビオトープ。小さな池ほどの広さがあり、水生植物のミクリが育てられている。
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国立第六小学校の敷地内を流れる矢川とビオトープ

矢川いこいの広場では大谷さん指導のもと、ミミズク作りにチャレンジ。縁起物として知られるミミズクを、ススキによく似ているオギを束ねて、丸くてかわいらしい形にしていく。

公園に広げたブルーシートの上で二人の高校生がにこやかな様子で、植物のオギを束ねて折り曲げている。
公園に広げたブルーシートの上で若い男性がススキのような見た目で、適度な長さにカットされたオギを束ねている。
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ミミズク作りの様子

この日のために多摩川で300本のオギを刈ってきたのは、まち歩きには参加できなかったメンバー。
「誰かのためになることはやりがいがあります。大変なことがあっても、仲間とごはんを食べに行ったり、おしゃべりしたり、活動だけではない楽しみもたくさんあるので、自分なりの喜びを見つけて取り組んでいます」と、日々の活動を楽しんでいる。

植物のオギでつくられたフサフサなミミズクが日の光を背にきらめいている。
フサフサなオギで出来たミミズクが、参加者たちにみせられている。耳は葉っぱでできていて、くりっとした目は黄色い丸いシールで参加者の個性が表れた目が描かれている。
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完成したミミズク。同じ材料でも形や表情に個性が出る

「もっと声をかけて、活動をつなげていきたいです。私たちで終わらせない。少し先の未来のために、いいサイクルを作っていきたいです。新しい仲間に会えるのを楽しみにしています」と話してくれたのは、活動二年目のメンバー。高校生活最後の年は、下の世代にバトンを渡すことが課題だという。

一年の集大成として、年度末には展示やイベントの企画を予定している。自分ができる小さなことを、一人でも多くの人が考える機会になりますように。

田んぼ脇の水路に足をひたしながら、高校生たちが思い思いのポーズをして写っているスナップ写真。

くにっ高生

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ボランティアってなんだろう?

取材陣にふと浮かんだ疑問、「そもそもボランティアってなんだろう?」。その形を探るべく、取材した方々に「あなたにとってボランティアとはなんですか?」と質問させていただいた。もちろん答えは、百人百様。

Q.あなたにとってボランティアとは?

高校生が笑顔で写っている。
小池 花こいけ はなさん
第五商業高校

「一方通行ではないサイクル。自分が何か動くことで、地域が活性化して、そこで自分も地域とのつながりが深くなって…人と人、人と地域、さまざまな循環が生まれるものだと思います」
「人とのつながりを生むものだと思います。ボランティアに参加したことで、地域の人や、一緒に活動する仲間にも出会えました。直接的な交流ではなくても、ゴミ拾いをすればまちがきれいになって、まちがきれいだなと感じてくれた人がいれば、間接的に関われる。さまざまな形でつながれると感じています」
高校生が笑顔で写っている。
田口 稔也たぐち みのやさん
第五商業高校

高校生が笑顔で写っている。
影山 瑠奈かげやま るなさん
国立音楽大学附属高校

「小さいことから変えていくには、お金にならないことをやっていくことが必要だと思います。大人になって仕事を持つと、お金にならないことを一人ではじめるのはむずかしいので、ボランティアなどで行動していくことが大事。大きなことではなくても、きっかけの一歩としてボランティアがあると思います」
「僕にとってボランティアは、地域とのつながり、他校とのつながり、新しい関係が生まれるきっかけになっています。自分の世界を広げる活動でもあると感じています」
高校生が笑顔で写っている。
鳴海 駿なるみ しゅんさん
国立高校

高校生が笑顔で写っている。
奥山 凱おくやま がいさん
国立高校
「自分から動いて、新しいことにチャレンジしたり、発見があったりするものだと思います。主体的に動くと前向きに取り組めるので「興味を持ったことはまずやってみる!」という気持ちを大事にしています」
「一人でできることもボランティア。自分のライフステージに合った関わり方をしていけばいいと思います。購入するものを選ぶことや、関心を持つこと、自分が選択するものすべてが間接的に世の中に影響するボランティアではないでしょうか」
高校生が笑顔で写っている。
有田 伊武起ありた いぶきさん
NHK学園高校
高校生が笑顔で写っている。
山本 祐多やまもと ゆうたさん
第五商業高校
「中学生の頃からボランティア部に所属していて、くにっ高生の初期から活動をしてきました。自分の行動が誰かのためになるのは、純粋にうれしいです。特別なことではなくて、仲間や地域の人と楽しい時間を過ごせた、新しい知識や経験が増えた、そんな日々の小さな幸せの一つです」

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電話:042-575-3223
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